和のお稽古ごとが身体を整える理由~アメリカ生まれの整体ロルフィングを受けて感じたこと

現代の生活で、身体は偏った使い方を強いられていないか

60歳になる前に、人生をリセットした私は、これまで編集という主に頭を使う仕事、今度は日本舞踊という身体を使う仕事になりました。ところが身体は若くなく、あちこちで不安要素がうまれており、今まで生きてきた身体の偏りや癖を見直した方がよいと思うようになりました。

もちろん、日本舞踊も上手になりたいですし!そこで、アスリートや音楽家など、身体のパフォーマンスの向上を目指す人たちの間で取り組まれているロルフィングを受けてみようと思いたちました。日本ロルフィング協会のサイトにアクセスすると、幸い、千葉に指導者の方が見つかりました。

ロルフィングとは、アメリカの生化学者アイダ・ロルフ博士(1896~1979)によって開発された、身体の再教育プログラムです。ヨガや太極拳、野口整体などと似ています。

一番の特徴は、地球が引っ張る重力と身体の調和といったらいいでしょうか。自然の状態では、筋肉や骨、神経、血液という身体に張り巡らされたネットワークが重力を利用しながら、代謝や排泄をスムーズに行っていますが、ケガや偏った身体の使い方で歪みができると、緊張したり固まったりして、全体に影響が及ぼされてしまうというのですね。下の図はロルフィング協会のシンボルマークです。左の身体が右の身体になるように、面接や手技を通して自分で身体の使い方を学んでいくのです。

ロルフィングを知ったのは、能楽師・安田登さんの著作と出会ったからでした。能の身体所作が、便利で安楽な現代社会で動かさなくなり、なまった身体の、まだ使われていない潜在力を引き出すことになるのではないか、みたいな考え方が(私の解釈がかなり入っていますが)、私自身の日本舞踊に取り組む姿勢と通じるものがあったからです。

参考文献:安田登『疲れない身体をつくる和の身体作法~能に学ぶ深層筋エクササイズ』(2006年祥伝社)

私達の身体にはまだ使われていないところがいっぱいある

身体能力なんて縁遠かった子供時代、ワクワクしていたものの一つに、白戸三平の忍者漫画「サスケ」がありました。人並み外れた身体能力、ちょっとした気配を敏感に察知する鋭い感覚、先の先を読む知的洞察力等々、人間にはまだ発揮されていない潜在能力がたくさんあって、鍛え抜かれた忍者たちの超人的な力に、なぜかものすごく心惹かれました。今も世界中の人々から「ニンジャ」に関心が寄せられるのもなるほどと思うのです。

子供の頃の「忍者」が、今の私にとっては、「踊りの達人」であったり「伝統文化の名人たち」です。日本舞踊だけでなくお能でも、茶道でも武道でも、そのお稽古は、身体が本来もっている潜在力を引き出すことができる、ということは、笑われるかもしれないけれど、私の信念になっていました。

というのも、私自身が若いとき生き苦しい身体で、何とか病気にならずにすんだのも日本舞踊のおかげがあるかもと思っているからです。ひどい身体の原因が、現代社会の頭ばかりを使い、便利さや効率を求めるあり方にあって、古くからある和の所作のおかげで健康なのかどうかは、あくまでも私の感じ方であり仮説でしかないのですが。ただいろんな書物を読んで、同じ考えの人に接すると、単純に我が意を強くしたりしてきました。

失われつつある和の生活の良さとは?

私が生きてきたこの50年の間に激減したものに、和室(畳で正座する生活)、和式トイレ、きもの(およびきものを着る人)があります。効率的なことを追い求める現代社会で、日本的なものは「面倒くさい」「古い時代の遺物」としてなくなろうとしているようです。

例えば、社会の高齢化のなかで、畳に正座する生活や和式トイレは膝を痛めるからと、テーブルと椅子、洋式トイレが「バリアフリー」で良いものとされてきました。日本の住宅はどんどん洋式化、バリアフリー化してきました。

ところが、バリアフリーはかえって筋力を弱めるというリハビリテーションの専門家も出てきました。その方は、自ら作ったデイサービスセンターにむしろ、段差、階段、障害物をいっぱい作って、そこを歩くことによって自然と、高齢者や障害者が筋力をつけるという、生活リハビリテーションを実践したのです。そして「バリアフリーよりもバリアアリーがリハビリになる」と主張しました。

参考文献:藤原茂『生活を活発にする 介護予防リハビリテーション』(2005年青海社)

この考え方は介護の分野では異端でなく、今は主流になっています。そう考えると、まだ若い私達にとっては、和室で立ったり座ったりする生活や和式トイレで踏ん張ることも、膝を痛めるのでなく、足腰の生活リハビリになるともいえるのではないでしょうか。和室がなくなり正座をしなくなったことと、日本人の姿勢が崩れていくことに、ある程度、相関関係があるのではないかと思うのです。

だから私は、きものを着ることが、紐と帯で身体の中心軸をしっかりつくって心身を整えていくことや、舞踊の基本である正座やすり足をして、気を頭から腹に下げて息を深くし、心を落ち着かせることをお稽古することで、自分のものとして身につけ、いろいろな場面で生かせるようになると、生活や人生も楽しくなっていくんじゃないか!と、お伝えしたいのです。

便利さのもとで、昔の良いものを捨ててしまうことほどもったいないことはない、と抵抗運動をしているあまのじゃくなのですが、そういう考え方も、現代の便利すぎる社会の限界や弊害を意識するする人が増えていくなかで、支持してくれる人が増えている気もします。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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