熱中症になって分かった「お稽古場の室温・湿度」問題

水分の問題だけではない

恥ずかしながら、先月、熱中症になりました。

私は山登りをするのですが、下山途中でなってしまったのです。その日気温は、朝から30℃近くあり、大汗をかいて4~5時間歩いていたのですが、突然下痢が止まらなくなりました。

そのときは、下痢の原因は思い当たりませんでした。まさか熱中症とは思わなかったのです。フラフラになったわけでなく、普通に歩けたので、つらかったけど無事下山。ただ体から大量の水分が抜けた(脱水状態)と思ったので、水分をたくさん摂りました。ところが、問題はそれからだったのです。

その日から、体調も食欲もなかなか戻りませんでした。いくら水分を飲んでもすぐ尿で出てしまうし、食べても下痢便で、身についていかない感じでした。ポカリスエットも経口補水液OS1も効果なし。

とにかく体がつらい。1時間電車に乗って自分の稽古に行って帰ってくるだけで精一杯。お師匠さんから「足に力が入ってないけど…(どうしたの?)」と言われ、確かに帰宅して緊張がとけると、足腰がフラフラしました。

そんな状態が10日ほど続き、一進一退でなかなか良くならないので、「これは完全に体が壊れてしまった」と思いました。もともと自律神経が弱いんです。そこで野口整体の先生のところへ、体を見てもらいに行くことにしました。

果たして先生の見立ては、「熱中症です」とのこと。

お臍の右側にかた~い筋のようなものがあって、熱中症の人はそういうのが出るそうです。

そして先生から頂いた、治るためのアドバイスは、私のそれまでの生活観や健康法に大転換を迫るものでした。

エアコンで25℃湿度55%以下「秋の空気を肺に入れる」

野口整体は民間療法の一つですが、体の変調を、骨格等を細かく手で触って観察することによって見立ててくれます。医学で「○○病」と診断される前兆の段階をとらえることができるわけですね。

先生いわく、熱中症とは「熱が体外排出されず、体がこわばってしまうために起こる諸症状」とのこと。その諸症状には、風邪のような症状もあれば、関節炎や手足の腫れ、湿疹など皮膚症状、下痢や大腸炎もあるのだそうで、要は、熱によるダメージがその人の弱い部分に出てきてしまうのだそうです。

例えば、医学的には「大腸炎」「肺炎」等と診断されることでも、体をみると「熱中症」ということがあるのだそうです。

そして先生がおっしゃった、私が治るためのアドバイスとは、

「夜はエアコンつけっぱなし」

「温度は25℃以下、湿度は55%以下」

でした。

確かに近年の気候は、梅雨明けすると、エアコン抜きでは寝られませんから、夜に「エアコンつけて寝る」のは熱中症対策としては一般的になりつつあるかと思います。しかし、一晩中だと体が冷える感じがして、私の場合「27℃くらい」とか「寝室がある程度冷える数時間後にタイマーで消す」など試行錯誤をしていました。

「25℃以下、55%以下」「一晩中つけっぱなし」にビックリして、シノゴノと「できない」言い訳を言いますと、先生いわく

「寒かったら長袖のパジャマに、掛け布団をして寝て下さい」

「目的は、肺に秋の空気を入れて冷やすためです!」

「整体で一番大事なことは、夜に深く眠ることです!」

と。う~~~ん、なるほど。

そして、先生は次のような主旨のことを言われました。

もはや昭和の頃の牧歌的な夏ではなくなった。この15年の間にすっかり定着してしまった異常なまでの「高温多湿」は、人間の体を確実にむしばみつつある。人間が生き延びるには、エアコンという文明の利器を大いに利用するしかない、と。

つまり、現代においてエアコンの中で過ごすくらいが、昭和~平成の初めのころの夏の気候と同じくらいだというわけです。あの頃の夏は「遠くなりにけり」なのに、私の生活態度は依然あの頃のままだった。夏の暑さを甘く見ていた!お年寄りと同じだと思いました。

また、間違った思い込みもありました。エアコンで人工的に室温調整することが、人間の本来備わっている自律神経という体温調節機能を阻害しているのではないか、と思っていのですが、この考えを改めました。現代日本の高温多湿の方が、エアコンよりも人間の体にずっと悪い影響を及ぼしていることを、骨身で実感したからです。

それからは、夜のエアコン設定温度25℃でつけっぱなし(設定25℃でも、つけっぱなしにすると朝は室温が24℃になっています。半袖ですと肌寒く感じますので、七分袖のパジャマにしました)、それ以外の時でも、基本は、「25℃以下、55%以下」を目指すようになりました。確かに、この方が快適ですね!

熱でこわばった私の体を先生が整体操法で治してくださるとともに、「秋の空気を肺に入れる」生活のおかげで、ようやく食欲が戻り、体が回復していきました。

思い起こしたのは昨年、父が夏に食欲をなくしたときのこと。かかりつけ医の見立てはやはり「熱中症」でしたが、「水分をとりなさい」というドクターのアドバイスに、父はなかなか飲もうとしませんでした。それはすぐにトイレに行きたくなってしまうからです。私の症状も同じでした。つまり私の体は、80代後半の父と同じくらいガチガチにこわばっていたのですね。熱中症おそるべし。

お稽古場の温度が高いことによる弊害

「お稽古場も、20℃台前半にしてください。じわ~っと汗をかくくらいはいいですが、大汗をかくのは止めた方がいいです」と先生。

先生がこうおっしゃるのは、バレエ教室では、エアコンを使わずに熱中症になる人が多いということがあるのだそうです。バレエのメッカがパリやモスクワなど涼しい地で、エアコンなしが普通だからでしょうか?

「エアコンを使わないで蒸し風呂の中で運動をしていれば、肺が下がります。肺が下がり、骨盤が下がるので、柔軟性が著しく落ちますし、バランス能力はおかしくなるし、筋肉は硬くなるし、練習後の疲れも取れにくくなります。もっと困ることは、こうした練習環境が連日になったり、毎年になると、心がやられてしまうのです」(先生のブログより引用)

日本舞踊教室でエアコンなしというところはないとは思いますが、私のように「昭和の夏が恋しい」世代だと(笑)、温度設定は25℃~27℃くらいでしょうか。しかし最近は、ゆかたを着ると25℃でも暑く感じますので、確かに20℃台前半がよいと、今なら私はそう思えます。

室温と湿度が分かるデジタル時計。今室温25.9℃、湿度45%を表しています

高齢者の方がいらっしゃると、「体が冷える」と言われるかもしれません。どのように合意を図るかは、決してやさしくはないと思います。しかし、まだまだ1カ月ほど厳しい暑さは続きますので、皆さんのお稽古場でも「温度・湿度」設定の問題に向き合ってみてください。根性論をやめて、気持ちよくお稽古できる環境で、お稽古にしっかり取り組みたいですね。

元の体力に回復するまで約1カ月かかりました。熱中症の経験は本当につらかったですけど、夏の過ごし方に対する自分の誤った考え方に気づけてよかったです。そして病から回復すると、心も体もリフレッシュしてきました。熱中症になってよかった、とさえ思えるから不思議です。

余談:今日の東京新聞日曜版に、「新型コロナ禍で乱れる自律神経のバランス」という特集が組まれていました。コロナ禍で、「自律神経が乱れて不定愁訴を起こしている人が多い」と順天堂大学の小林弘幸先生。ウイルスによる病気でなく、コロナ禍が原因で起こっていることに注目したいです。つまり、熱中症になりやすい環境は、コロナ対策の影響もあるといえないでしょうか。特に「夏のマスクは熱中症のリスクを高める」と、整体の先生はおっしゃっています。厚労省も、「人との距離が十分とれたら、マスクは外しましょう」と言っています。お稽古時のマスク問題についても、引き続き考えていきたいです)