正座とあぐらの意外な真実

少し前に、「朝の瞑想のススメ」を書きました。私は、瞑想を正座で行っています。しびれない正座のコツについて書こうと思い、正座について調べ始めたら、ちょうど家の本棚に、『日本人と正座』(丁宗鐵著、2009年)という本がありました。読んだらすごく面白くて、正座について意外な真実が分かりました。今日は、そのことについて書いてみます。後半に、しびれない座り方についても書きます。

昔の日本人は正座をしていなかった!意外と新しい正座の歴史

『正座と日本人』の著者である丁宗鐵(ていむねてつ)さんは、医師です。漢方に造詣が深く、未病(病気になる前に予防すること)を説いています。正座で膝を壊す人が多くクリニックを訪れることから、この本を書かれたそうです。著者は無類の歴史好きで、昔描かれた肖像画等から、日本人がどう座ってきたかの歴史を解き明かしていきました。

「時代劇では、武士も町人も農民も当然のように畳に正座をしています。…(それを)観た多くの人は、ほとんど全員、『日本人はずっと昔から正座をしていた』と思うのではないでしょうか。…しかし私からすると、例えば昭和30年代を描いたテレビドラマに洋式の温水洗浄便座が登場してくるのに近い違和感があります」(『日本人と正座』p76「時代劇に見る座り方」)

著者によれば、日本人が正座をするようになったのは、江戸時代の後期から。江戸城で将軍に拝謁する作法として正座が取り入れられ、つまり、足がしびれ、将軍に対して刀が抜きづらく、機敏な動作をさせないようにするためなのだそうです。

その前はどうしていたかというと、あぐらや立て膝であった。歴史的人物の肖像画を見ると、だいたいあぐらです。あぐらが「正座」つまり正式な座り方とみなされていた時代があったのです。

つい先日まで我が家でもお雛様が飾ってあったので、お内裏様の足を見たら、両足の裏を合わせたあぐら(楽座)でした。お雛様の方は、裾の広い袴で、足が見えませんが、膝のあたりが広く空いているので、正座でないようにも見えます。

お内裏様の足は足裏を合わせたあぐら(楽座)です

正座は江戸時代、武士の礼儀作法として広まった側面、身分が低い人が身分の高い人の前でかしこまる形としての側面、芸人など身分の低い人は、狭いところで多くの人が身仕舞いよく過ごすのに便利だったという側面もあるようです。

それが、明治時代以降,日本人のすみずみに広がり、「正しい座り方」になったのは、明治政府が諸外国に対して「日本人」としてのアイデンティティを形作る必要性に迫られ、それに武士の礼儀作法であった正座が取り入れられ、国民もそれを受け入れたからだと、著者は見ています。

そういえば、NHK「チコちゃんが叱られる」で、「なぜ日本人はお辞儀をするか?」という問いでも、ちょうど同じ答えでした。「正座してお辞儀をする」という美しい日本の礼の文化は、実は明治以降に作られたものだったんですね。

100年にわたって日本人像を作り上げた正座は、今はその使命を終えつつあるのではないか、と、著者は書いています。

医師が勧める正座エクササイズ

私は昭和30年代生まれなので、子ども時代、畳に座る生活が普通でした。今も、食事は座卓に正座して食べる方が落ち着きます。「正座は優れた日本の文化」だと思っていたのは、思い込みだったのかと、本書を読んで愕然としました。

しかし、著者はこうも言っています。昭和の終わりごろ、つまり住宅から和室が少なくなり日本人が正座をしなくなった頃から、電車の座席で足を投げ出す「社長座り」をする若者が増えた、と。医師である著者によれば、それは腰から下半身の関節に力が入らないからだと書いています。

私も電車の中で、両膝をつけないで股が見えるような座り方をしている女性が、ある時期からあっという間に増えたことがずっと気になっていました。そういえば、昭和の時代、スカートが短かいとパンツが丸見えになるからと、膝と膝の間をあけずに座っている女性が大半だったような気がします。

正座には、1)膝周辺の筋肉を強く、柔らかくする、2)股関節、膝関節、足関節の可動域が広がるというメリットがあるそうです。その他、3)心臓、肺、横隔膜など内臓の負担が軽くなる、4)肛門括約筋をはじめ、骨盤と内臓を支える筋肉が鍛えられる、5)消化器の働きがよくなる、6)眠気がとれる、精神が集中するという点も挙げています。

逆にデメリットとしては、1)膝痛を起こす、2)運動障害を起こすことがある、3)エコノミークラス症候群を招くことがある、等を挙げています。

そして、著者は、これからの時代、上記のメリットを活かして、正座をエクササイズとして行ってはどうかと提案されています。特に、子どもたちに、短い時間正座トレーニングをするよいとおっしゃっています。(長くやるとしびれて、正座がきらいになるため)

この正座エクササイズという、正座のこれからの時代の役割こそ、日本舞踊にも通じるものだと思いました。楽しく踊りながら、正座したり立ったりするので自然と下半身が鍛えられます。日本舞踊のこれからの時代の役割の一つは、身体づくりだと思っていましたので、我が意を得た感じがしました。

しびれない座り方

さて、しびれない座り方のコツですが、私のやり方は以下のようなものです。長年正座をしてきて、座りダコもバッチリある私なりのやり方なので、初めての人には向かないかもしれません。

起座の姿勢(下写真)。踵はお尻の下の座骨を触っています。この状態では、まず足の血管が圧迫されることはありません。

そこで、起座から徐々に踵を外側に広げてお尻を沈めます。このとき、意識するのは、膝下の足の骨です。足の骨と骨盤まわりの筋肉でしっかり土台を作り、その上に、座骨、骨盤、そして背骨を乗せるイメージ。骨同士なら血管や筋肉を圧迫しないので、「骨で座る」とイメージしたうえで、お尻の上の方の筋肉や背筋を使って、足にどっかり体重を乗せないようにします。

重心を前にかけると膝を痛めるので、座骨側に重心を置きます。腰を伸ばしますが、背中にも肩に力が入らない自然体を心がけます。

あぐらからスッと立つ方法

ところで、日本舞踊では、茶道や邦楽ほど長時間座らなければならない必要性には迫られていません。それよりもむしろ、踊っていて直面する難しい問題は、正座、あるいはあぐらから、スッと立てるかどうかでしょう。これは年をとり、下肢筋力の衰えとともに、難しくなっていきます。

最も難しいのは、あぐらからスッと立つことです。手を床について立つと美しくないので、なるべく手をつかずに足だけで立つ。これは、下肢筋力もですが、コツが必要です。

①あぐらをかく所作の前に、骨盤を立て、胸を張り、その状態のままあぐらに入る。骨盤が立ってないと、お尻が持ち上がらず「よっこいしょ」という感じになってしまう。

②あぐらから立ち上がるときに、客席から見えない方の足を素早くお尻の下にいれ、足をお尻のリフトにして、もう片方の足で踏ん張り、一気呵成に立つ。

お尻の下に素早く足を入れる

以上を行うためには、お稽古あるのみですが、大事なのは、「私はできる」というイメージを持つことだと思います。「もう年だからできない」等「~だからできない」と思うと、本当にできなくなってしまいます。確かにもう若くはないけれど、安易に「できない」と思うのはやめよう、と日々自分に言い聞かせています。


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