フリ(振り付け)を覚える逆説的方法

ご高齢者の方々も教えていますが、皆さん踊りのフリを「覚えられない!」「覚えが悪くて」とおっしゃいます。実は、来年は60歳になる私もそうなんですよ。

お師匠さんからいつも、「早く覚えなさい!」「まだ覚えられないの!」と叱られています。そんな私の、フリを覚える方法を書きますので、同じ悩みを持つ人の参考になれば幸いです。

お稽古が終わった直後に頭でさらう

我が師匠も若かりしころ(数十年前)、大師匠さんから、1回のお稽古で覚えないと大変怖かったので、次のお稽古には完璧に踊れるよう覚えたとおっしゃっていました。

昔はお稽古の日数が多かった(毎日ということもあったそう)ので、家に帰ってさらう(お稽古事では、復習することを「さらう」といいます)ことはしなかったけれど、お稽古が終わって、着替えている間にも頭の中でさらって忘れないようにしていたそうです。

忘却曲線というのがありますよね。時間がたつとどんどん忘れますが、覚えてすぐに思い出しておくと、記憶が上書きされて忘れない。お稽古直後すぐにさらうというのは理にかなっています。師匠にそれを言われてからは、着替えているときや、帰りの電車の中でも必ず頭の中でさらうようにしました。

ノートに書いて覚える

前の職業が編集者だったので、私は書くことが好き。パソコンやスマホでなく、紙に筆記用具で書くことが大好きなんです。それで、フリノートを作って書いて覚えています。

人に教える立場でもあるので、ノートに残しておくのは必須ということもあります。最初はなかなか書けないので苦心しました。だんだん慣れて、絵と言葉で書けるようになっていきましたし、言葉で書き残しておくべきポイントも分かってきました。

①お稽古から帰りの電車の中で、頭の中でさらう

②家に帰ったら、歌詞を書いて(演劇出版社『日本舞踊曲集成』のその曲のところをコピーしておく)、フリを思い出しながらフリノートに書く。その日のうちに書けないこともあり、忘れてしまうこともあるため、歌詞はペンで、フリは鉛筆で書く。

③次のお稽古までに、ノートを見ながら実際に曲を流して踊ってさらっておく。あやふやなところは、あやふやなであることを自覚して、次のお稽古で確認するため、大きく「?」と記しておく。

④2回目のお稽古で、③のフリの確認をする。これでだいたいフリが身につくので、帰ったらフリノートの鉛筆部分をペンで清書して、鉛筆を消しゴムで消す。

言葉で書くポイントは、間違えやすい、あるいは忘れやすい「右か左か」とか、どちら側を向いているのか、ですが、からだの向きや視線について、師匠に注意されると、「チャンス!」と思って書き記しておきます。注意されたことは、結構忘れないものです。

フリノート。A5版の「ほぼ日手帳」に3色のボールペンで

手帳に書いたものは1曲終わるとPDF化。データとして保存・整理しておく他、プリントアウトし曲ごとにファイル

書いたら忘れることも大切

書くのが面倒という方も多いと思います。そういう方には、お稽古で習ったことを人に話したりすると、自分一人のものとしてしまっておくより記憶に刻まれると思います。インプットするためには、アウトプットしておくとよいのです。

「書く」「話す」という行為は、頭の中にインプットした情報を、いったん外に出すアウトブットの行為です。単に頭の中に入れておくより、絵に描いたり言葉にして出すためには、脳で情報を咀嚼しないとできないので、脳の中にしっかり刻まれるようです。

それともう一つ、書くまでは常に「忘れてはいけない」と頭が緊張していますが、書いたら忘れてもいいと思えるので、脳のストレスが少なくなります。脳科学の知見では、いったん忘れた方が,長期記憶として保存されるそうです。「寝かせておく」と脳が取捨選択して、長期に残しておきたい記憶だけ残しておくのだとか。

確かに、書いたものを読み返すと、忘れていたのに、そのときのお稽古の様子とかも、パーッとよみがえってくるから不思議です。

歌詞や曲調からフリを推測する

日本舞踊は、歌詞の内容とフリがセットです。フリは歌詞の通りですから、先に唄の内容を覚えてしまうと、フリが推測できるようになります(フリノートに歌詞を書くのは、歌詞とフリをセットで覚える効果があります)。自主稽古では、歌いながら踊ったりするのもいいですね。

いろいろな曲をお稽古すると、フリの引き出しが増えていきます。違う曲でも似たような曲調で「ここはおすべりかな」とか「ここは送り足」とか、自然と体から(つまり脳の引き出しから)出てくるようになり、そうすると覚えるのも早くなります。

初めてやるフリはなかなかできないし、覚えられないものです。しかし、そこはよくしたもので、裏技があるんです!

つっかえて間違えて何度も繰り返し叱られると忘れない

お師匠さんからいつも苦笑いされるのですが、私はどちらかというと不器用な方だと思います。

初めて出てくるフリとか、難しいフリはできるようになるまでにすごく時間がかかります。お師匠さんに一緒に踊っていただいて「フムフムこうやるんだな」と思っても、いざ一人で踊る段になると、すっかり頭からすっ飛んでしまいます。

我が師匠はありがたいことに、フリと体の使い方をとても細かく教えてくださいます。出の歩き方から「ダメ出し」が何度も出ます。4年前、今の師匠に習い始めたころは、「こんなこともできないのか」と落ち込んでいましたが、最近は、お師匠さんから何度も注意される方が良く覚えるということに気がつきました。

お師匠さんには不肖の弟子で申し訳ないのですが、何度も注意されて、なかなか覚えられないことの方が、長期的にはしっかり覚えられるという「逆説」を発見したのです。

ですので私は、自分が人に教えるときにも、その人がなかなかできないところからできるようになるまでの過程を大切にしたいと思っています。

覚える方法は自分なりのオリジナル

初心者のレベルながら、小鼓のお稽古もしています。

鼓の難しいのは、踊りは三味線の間から外れるフリは滅多にないけれど、お囃子は三味線の主旋律どおりではないことがあるところです。

踊りで何度もお稽古して曲は頭に入っているはずなのに、なかなか覚えられない…。例えば「供奴」では、最初の出や最後の足拍子は鼓に合わせて踊りますからあっという間に覚えられますが、それ以外のところで、鼓と三味線が微妙にずれるところが難しい。

小鼓を持っていないので、家でお稽古するときは、左手こぶしを右手で打つだけのエア稽古です。お師匠さんの手組みを録音させていただき、繰り返し聞いてお稽古しますが、できないところはいつも同じ箇所です。

そこはもう、その曲のその場所で無意識に手が打っているように、つまり食事のときベルを鳴らしただけで、唾液が出るようになった「パブロフの犬」を目指してお稽古するしかないと思いました。

プロの方々は舞台以外の場所でも、流れてくる曲を聞くと、その曲名を忘れても、鼓の調子は自然と体から出てくるということです。

お師匠さんに「皆さん、どうやって覚えていらっしゃるんですか?」と聞いたら、譜を書いて覚えたり、「タ」「ポン」「チリカラ」という唱歌(しょうが)を口ずさんだり、文字通り百人十色で、一人一人自分に合ったやり方をしているのだそうです。

お稽古の最終目標に至る過程は、その人の個性でもあるのですね。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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