祖母と母のきものを生かす

仕事柄、おそらく普通の人よりたくさんのきものを持っていると思いますが、自分で作ったものは案外少ないものです。多くは、人からいただいたものです。

きものを自分で作ったのは、ほとんど必要に迫られてです。最初は、舞踊会からパーティー、結婚式まで幅広く着回せる、一つの紋の色紋付きでした。呉服屋さんには申し訳ないのですが、自分で反物を買って作るということを、あまりしていないのです。

そんな私ですから、母や祖母が持っているきもので“いいなぁ”と思うものを見つけたときは、「お宝だ!」と興奮してしまいます。今日は、母や祖母からもらったきものをどのようにリフォームして着ているかについて書きます。

普段に着ていた祖母の世代、自分で何とか着られる母の世代

母も祖母も、伝統芸能とは無縁の、ごく一般的な主婦です。

私の子供の頃(昭和40年頃)の写真に、母方の祖母がきものに割烹着を着て写っています。祖母は、普段着にきものを着ていたわけです。

祖母は忘れもしない、私が結婚した二十数年前、86歳で亡くなっています。今生きていれば110歳くらい。明治の終わりの生まれで、大正、昭和、平成と生きました。普段着にきものを着ていた最後の世代かもしれません。

80歳代前半の母は戦争中に小学生で、(東京大空襲を経験しており、その話はしょっちゅう聞かされました)、普段きものを着ることはなく、お正月、子供の七五三、小学校の入学式、結婚式ぐらいの特別なときに着ていました。きものが嫁入り道具に必須だった時代であり、何とか自分で着られる、最後の世代かもしれません。そんな母も最近は結婚式、お葬式も洋服です。

58歳の私は、10代20代は日本舞踊から離れていたので、成人式のときには、親に言われるまま着るだけでした。世代としては、ほとんど着なくなった世代といえるでしょう。日本舞踊を再開したおかげで、ちょくちょく着るようになりましたが、それまでは私も「タンスの肥やし」にしていました。

今や私は、ありがたく3世代のきものに活躍してもらっています。

丈や裄を出したり、染め直したり

母と私の体型は似ているので、ほとんど作り直す必要がありません。ただ、踊りでは裄(ゆき:腕の長さ)が長い方がよいので、洗い張りに出して裄を長く出してもらったものがあります。

さすがに祖母は身長が私より小さいので、丈を長くするため、おはしょりの部分で継ぎ足していただくリフォームに出しました。もちろん裄も出してもらいました。

祖母の大島紬はお気に入りの1枚。柄は本当に何の変哲もないのですが、黒と藍の色合いになんともいえない深さがあり、軽くて着やすいので、もう着倒すほど着ています。お墓の中で、祖母は「あの智ちゃんが着てるのかね~」とビックリしながらニコニコしているかもしれません。

祖母の大島紬。京都のリサイクル店で買った藤の帯と

母が若い頃に着ていたきもので、シミが結構ついていたものは、染め直しました。染め直しというのは意外と難しく、できあがりが自分の思ったとおりでないこともありますが、染めて頂いた職人さんの思いが伝わってきたので、「これでよかった」と清く受け入れて着ています。

母が若いときに着ていたきものを染め変えた。染め変え前(左)染め変え後

私が20歳で着たままタンスの肥やしになっていた振り袖も、日本舞踊では娘ものなど、振り袖で踊る演目のお稽古のときに使うことがあります。

人に着せる着付けのお稽古にも使っています。家には和装着付け練習のためのマネキンがあり、私の振り袖と、母の嫁入り道具だった60年前の留め袖も、練習用に使っています。

リフォームのコストは?

リフォームにもお金がかかりますから、きものをもらったら、このきものを自分はどこでどのように着たいのか、リフォームすべきか否かを考えます。家で着る分には、多少つんつるてんでもよいのですが、着て外に出たい、何度でも着たいと思ったらお金を出してリフォームします。

昔は知識が少なくて、うまくいかなかったこともありますが、失敗は「勉強」と思うことにしています。

私が使っているのは、「染めの近江」というチェーン店と、馬喰町問屋街の会員制のお店「辻和」が年に何回か行う、特別価格のリフォーム会です。

ざっくりいうと、洗い張りが5000~6000円くらい、仕立代が2万~3万円くらい(小紋か訪問着か、単衣か袷かによって違います)。大きなところでは、縫製を安く抑えるため東南アジアの工場で行っていますね。時間がかかっても安い(3カ月~)海外縫製か、高いけど早くできる(1~2カ月)国内縫製かを選べるのです。国内の和裁職人さんを守るためには、国内でお願いした方がよいのかもしれませんが…。急いでいるときは迷わず国内を選びます。

ウールのきものは単衣なので、裄出しは自分でやろうと思えばできます。人に教えてもらって、自分で縫い直したものも、少ないですがあります。

3カ月くらい待って仕立て直したものに手を通すとき、ドキドキわくわくします。昔の絹は、蚕が丁寧に育てられているので、絹の品質が今よりずっと良いと言われていますね。

母親は、私がきものを生かしているので、「よかった、よかった」と喜んでいます。一番喜んでいるのは、暗いタンスの中から日の目を見ることができた、きものたちかもしれません。


最後までお読みいただきありがとうございます。

日本舞踊やってみたい!と思われた方は、ぜひ無料体験レッスンにお越しください。

>>詳細はこちらをクリック