良い出会いのために
当教室の特徴の一つは、ほとんどの方が、初心者としてゼロからのスタートであることです。
「なぜ日舞をやろうと思ったのですか?」とお聞きすると、一番多い理由が、【きものを着て、体を動かしたい】というものです。
「体を動かしたい」という意味は、「普段、運動不足なので、それを解消したい」あるいは「体幹を鍛えたい」とおっしゃる方もいます。
こうした理由で入門された皆さんに、初回の体験レッスンを終えた後、何をするかといいますと、
- ①きものを自分で着られるようにする。いわゆる【自装】の着付け
- ②きものを着ての所作
- ③舞扇子の扱い方
などの入門編を身につけ、簡単な曲から踊ることを稽古していきます。
きものを着て、座る(正座する)、お辞儀をする、正座の状態からスッと立つ、歩く、階段をのぼるなどの所作や、お扇子の持ち方、開き方、閉じ方等をお教えし、1~2分の短い簡単な曲を一緒に踊ります。
こうして、「きものを着る」「踊る(体を動かす)」という皆さんの初期の目的は達成できますので、この時点では皆さん「楽しい」とおっしゃってくれます。
そうして3カ月、半年、1年と、皆さんの踊る技術の進歩にともなって、だんだんと難しい曲にステップアップしていきます。
日本舞踊は何百年と続いてきた伝統芸能で、とても奥が深く、曲もたくさんありますので、「できれば長く続けてほしい!」(「細く長く」でもいい!)というのが私の願いです(年をとっても、死ぬまで楽しむことができます。本当ですよ!)。
しかし「続く人、続かない人」が出てきます(当たり前といえば当たり前ですが)。皆さんも、「思っていたのと違った」「先生と相性が合わなかった」と思われることもあるかもしれませんね。
私としては、少しでも良い出会いがしたいなぁと思います。そこで、初めて日舞に接する方々に、日本舞踊とは何か?どんなことをするのか?お稽古(練習)は月に何回するのがよいのか?等を解説しながら、それが皆さんから見て「向いている」か「向いていない」かということについて、私自身が色々な方々と出会って気がついたことを書いてみたいと思います。
今迷っている方々のご参考になれば幸いです。
向くか向かないか① 日本舞踊、新舞踊、民謡があるので、自分に適したものを選ぶ。日本舞踊は振りを覚えるのが大変
日本舞踊には定義があって、公益社団法人日本舞踊協会の定義によりますと、「歌舞伎舞踊の技法を基本とした舞踊」です。
言葉どおり「日本の舞踊」なら、民謡・盆踊りも含まれてよいと、私は思うのですが(私は盆踊りも大好きなので)、この定義によると含まれていないのです。
どういうことかといいますと、「きものを着て、体を動かしたい」という方には、日本舞踊でなく盆踊りや民謡(阿波踊りとかよさこいソーランとか)という選択肢もあるということです。
盆踊り・民謡系の起源は、その土地土地に根ざした郷土芸能です。歌舞伎を起源とする日本舞踊との大きな違いは、①盆踊り同じ所作を繰り返すが、日本舞踊は同じ所作を繰り返さない、②盆踊りは多人数(団体)で合わせて踊るが、日本舞踊は1人あるいは少人数で踊るーーということかと思います。同じ振りを皆で合わせて踊る楽しさは格別ですから、それを主に味わいたいなら、盆踊り系をオススメします。
日本舞踊は歌舞伎から発祥しているので、お芝居でもあり、一つとして同じ動作が繰り返されることがありません(もちろん例外もありますが)。一つの曲の中で、あるストーリーや、叙情詩・叙事詩の世界が展開されていきます。ですから、振りを覚えるのは、その物語や詩の世界全体を表現すること。ゆえに、結構難しいのです(そういう奥深い世界をきわめていく面白さは格別ですが)。
特に江戸時代~明治期に作られた「古典」は、唄の言葉も昔の言葉で聞き取りにくく、歌われている世界も現代とは違うので、それを表現するのに苦労します!
一方、昭和以降の歌謡曲に振り付けのついたものもありまして、これは「新舞踊」といわれています。こちらは、歌の言葉が現代語なので、とっつきやすいです!例えば、美空ひばりさんの「川の流れのように」とか、私は大好きですね。
しかし、すみません!私の教室は古典が中心で、新舞踊をやっていないのです。ですので、「古典より新舞踊」が良い方は、そういう教室をお探しになると、ご自身に適しているのではないかと思います。
向くか向かないか② ダンス(音楽に合わせて踊ること)が苦手な人は、頑張らないといけない
私の教室では、バレエ、フラメンコ、フラダンス、ヒップホップなど、過去に他のダンスを習ったことのある人が日舞に惹かれて、入ってくる方もたくさんいらっしゃいます。
もともとこうしたダンス系をされている方は、日舞の上達も早いです。それは、もともと音楽に合わせて体を動かすことに慣れているだけでなく、指導者が踊るのを真似するとか、動画を見て左右逆に踊れるとか、鏡を見て体の動きを修正したりする訓練ができているからなのでしょう。
美しいダンスというのは、古今東西を問わず、人体の要である腰がブレずに踊れていて、そのバランスの美しさが人々を惹きつけてやまないのだと思います。その運動が、どちらにどの程度動いていくのを美しいと感じるかに文化の違いが出てくるので、他のダンスをなさった方は、日舞との違いや似ているところを意識しながらお稽古していくと、面白く深いお稽古ができるように思います。
一方、ダンスが苦手な方は、それまでやってこなかった分、あるいは訓練をしてこなかった分、ハンデがあるわけです。
発表会で、自分よりあとに入門した人が、自分より上手に踊っているのを見て、「やっぱり自分は踊りに向かない」と思ってやめてしまうケースは少なくありません。他人と自分を比べて、自己否定してしまうわけですね(お気持ちは分りますが)。
日本舞踊は、基本的に個人レッスンで、1人で踊るものが多いため、普段は他人と自分を比べることがあまりありません。
また、私もその人個人のニーズ(日本舞踊を通じて何を自己実現したいか)に着目し、その人の性格に合った声かけや指導をしていますので、コンプレックスやひがみなど、人と人の間でマイナスの感情を引き起こす機会は比較的少ないかも、と思います。
似ている問題に、「器用・不器用」の問題があります。器用な人は、短い期間で上手に踊れるようになりますが、不器用な人は時間がかかります(かくいう私はどちらかというと不器用で、時間がかかるタイプです)。
「踊りが苦手」「不器用である」ことは、道が険しいので、「思っていたより難しかった」「奥が深くて私には太刀打ちできない」と、早々にあきらめてしまうケースも多いように思います。
それは皆さんのご判断によりますが、「苦手」で「不器用」であっても、「踊ることが好き」であれば、そのハンデは超えられます(次の項参照)。
一方、器用な方にお話をお聞きすると、器用な方には器用な方のデメリットがあって、いわゆる「器用貧乏」ということがあるとのこと。器用ですぐにできてしまう分、そこから先がなかなか深められないとおっしゃっていました。一方、不器用な人は、指導者から目をかけてもらえる、苦労して時間がかかる分、良く身につく、忘れないなどのメリットがあって、もしかすると将来「大器晩成」というご褒美が待っているかもしれません!
向くか向かないか③ 好きな「何か」がある人は、やすやすとハードルを越えられる
ここまでちょっと厳しいことを書いてきました。しかし、色々な生徒さんをみながら、また私自身を振り返っても、これまで述べたハードルを越える「何か」を持っている人は、やすやすとそこを越えているように感じます。それは、日本舞踊であれば、例えば
- 歴史が好き
- 歌舞伎が好き
- 日本のもの、和のものが好き
- 伝統的なものが好き
- 昔のものが好き
- 古いものが好き
YouTube等で、きれいなきものを着て、美しい所作で舞っている日本舞踊を見て「あこがれる」だけでは、その先に①や②のようなハードルが待っているかもしれませんが、その「大変さ」「難しさ」を越える「踊ることが好き」、日本舞踊への“愛”を感じるようになった人は、日本舞踊に向いている人だと思います。
そうやってお稽古に通って下さる方には、私はあらゆる工夫をこらして、楽しくお稽古していただくための努力を惜しみません。例えば、80歳代でお稽古を始め、「振りを覚えられない」とおっしゃった方には、覚えやすい短い曲を、毎回毎回一緒に踊り、何年でも同じ曲を繰り返してお稽古するようにしています。その方の場合、「要介護にならないために、足腰を鍛えたい。認知症にならないために、頭を使いたい」というニーズがハッキリしていて、何より踊りが大好きな方でしたので、コツコツと細く長く96歳までお稽古を続けられました。
お稽古は1カ月に何回が良いのか?家での予習復習は必要か?動画の活用方法は?
当教室では、月謝制ですが、月に何回通うかによって金額が決まっています。
多いパターンは月4回、忙しい方は月2回。また、3回の方もいらっしゃいます。
現代社会を生きる私達は忙しいです!仕事でもプライベートでも家事や家族のケア(子育てや介護)、他の趣味活動などと両立させて、日舞を続けていって欲しいというのが、私の願いです(お稽古回数を増やしたり減らしたりすることについて、当教室では柔軟に対応しています)。
このホームージのトップにも、「入門者の声」で、月に何回通っているか、家でも予習復習しているのか等について、インタビューしておりますので、それを読んで参考にしてください。
私は「家で予習復習しなさい」とは、強制していません(たまに宿題を出すことはありますが)。「入門者の声」を載せるにあたって生徒さんを数人インタビューして初めて、月2~4回の人も、習ったことを忘れないために家で予習復習していることが分かって、驚き、かつ嬉しく思いました。
特に月2回の人は、2週間に1回だと、前にならったことが体から抜けてしまうため(脳から抜けてしまうということですが)、一つの演目を仕上げるには、どうしても時間がかかります。
「振りを覚えられない」という皆さんの声にお答えして、動画配信サービスも行っていますが、体で覚えるものは、いくら動画があっても、動画を見ただけではダメで、体を動かさないと覚えることはできないものです。そういう意味でも、お稽古の回数が少ないと厳しいのです。
お稽古に来る回数が多い人ほど、質の高いお稽古ができますので上手になります。これは間違いありません。
それでは、この問題について、私自身の体験についてお話ししましょう(これが正解ということではなく、あくまでも参考として)。
私自身のお稽古
私は、現在週に3回、自分の稽古のために、師匠のもとに通っています。これは人に教える以上、自分に課したノルマですが、プロになる前、サラリーマンとして忙しい日々を送っていたときも、週2回お稽古することが普通でした。
私の現在のお師匠さんは、2歳で踊り始め、ブランクなく80数年踊り続けてきた方で、驚くことに、旦那様の在宅介護をおよそ20年以上なさっていた時期も、踊りを教えておられました。
我が師匠によると、戦後すぐの頃は、毎日お稽古があったそうです。それが、週5になり、4回になり、3回になり、週2になりましたが、今でも週1以下のお弟子はいません(つまり、最低ラインが週2なのです!)。(昔、毎日お稽古があった時、おさらい会=発表会は、「毎月あった」そうです)。
週2回ですと、前にならったことを体が覚えています。2回のうち1回お休みして週1回ですと、「体から抜ける」感覚があります。お師匠さんも「1週間たつと、体から抜ける」とおっしゃっていました。
私の体感ですと、忙しい日々を送ると、忘れるのも早いようです。脳が忙しくフル回転したために、新規の記憶(覚えたばかりの振り)がどこかにすっ飛んでいくような感覚があります。忘れないためには、繰り返し脳に刻みつける必要があるようで、そのために備忘録としてフリノートを書いたり、自分でスマホに撮影したり、涙ぐましい努力(自分で言うのもなんですが)をしています。
わが師匠は、「家でお稽古するな!」と言われます。「自己流の変な癖がつくから」だそうです。「家で稽古するのは、振りの順序を覚えるだけにしなさい。お稽古は、ちゃんと師匠の前で緊張して(師匠に正しい形をチェックしてもらいながら)お稽古しなさい!」と、言われます。
不器用な私は、「まだ覚えてない!」と怒られるので、ある程度の予習復習は必要なのですが。
わが師匠はもちろんお稽古に動画を使いません。(コロナ禍のときだけ許されました)
私はお稽古に動画配信をしていますが、動画に頼りすぎるのはよくないと思っています。なぜかというと、動画では細かい振りや形も完璧ではなく、それを正しいと信じてしまうと、独り歩きしてしまう危険性があるからです。
ですので、動画はあくまでも振りを覚える・確認するためだけに使い、お稽古は師匠との対面を基本として、
- 振り(所作・動作)
- 間(ま/リズムのこと)
- 正しい形
を覚えていってほしいと思います。
以上、お稽古を何回するのか?に正解はありません。あなたが実現したい目標やニーズのために、あなたの生活と両立、あるいは生活の中に取り入れ、お稽古を「生活化」(カスタマイズ)していただき、長くつづけて、あなたにとって「日本舞踊をものにして」いただきたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございます。
日本舞踊やってみたい!と思われた方は、ぜひ体験レッスンにお越しください。