今年1~3月、入門される生徒さんが増えました。
皆さん初心者の方で、きものを着るのも初めてという人がほとんど。数人の方は「前に着付け教室に通ったけど、挫折した」という方もいらっしゃいました。
きものの着付けはいくつものプロセスに分かれていますが、皆さんが「難しい」とつまずかれるところは、だいたい同じなのだと実感しています。
そこで、今日は、そこだけをピンポイントで解説してみます。
まずは腰ひもの決め方・結び方。腰ひもは、ベースキャンプみたいなところです。そこがくずれたらすべてがグダグダになって着崩れてしまいます。
ですので、ここだけを何回も反復練習すると、皆さんの着付け力もぐんとアップするのではないかと思います。
すでに着付け教室に通われた方は、もう全体像が分かっているのですから自立への道も近いですよ!たとえ「挫折」したとしても、どっこい!私達の脳は必ず何らかを記憶していて、再度の挑戦を待っています。
少しでも皆さんのお役に立てれば幸いです!
背筋を伸ばし、裾線を決める
左手できものの背縫い、右手で両衿(えり)の衿先から15cmくらいのところをもって上にまっすぐ上げます(左写真)。そのまま下へまっすぐ下げて、裾線が床すれすれの位置になったら(右写真)、衿をもった腕を前に「前へならえ」します。
そのとき、背筋を伸ばすことがポイントで、鏡を見ながら行いましょう。下を向くと猫背になり、それだけでも少し着崩れてしまいますので。
背筋を伸ばし、きものの後ろ身頃が背中にピタッと吸い付いたら、「前へならえ」した手を前へまっすぐ伸ばします(左写真)。右写真は悪い例です。手が上がってしまって、裾線が上がってしまっています。
「体」という筒に「きもの」という布をシッカリ巻く
着付けというのは、体という筒に平面の布を巻くことといえます。シッカリきっちり巻くための手のワザがあります。
私がきものの学校で習ったワザは、衿先を持った左右の手の人差し指を内側に入れて(左写真)、その手の平を上に返すというものです(右写真)。こうすると、手の平と4本の指と手首を使って体に布を巻く作業がわりとうまくいくんです。
上前(向かって右側、本人にとって左手側)の身幅を見積もり、右手できものをまっすぐ右に引っ張ります(左写真)。右写真は悪い例です。右手が上に上がって裾が上がってしまいます。初心者の方は緊張しているので、肩や手が上に上がりがちとなってしまいます。
見積もった左手を開けて、右手で下前の前見頃を体にシッカリとまっすぐ巻きます(左写真)。裾先だけ4本の指を使ってキュッと上に上げます(左写真の↑)。
右の写真のように、右腕が上がってしまうと、裾全体が上がってしまいます。初心者の方は緊張するので、どうしても肩と腕が上がってしまうのです。ここが一番皆さんが「難しい」と感じられるところかもしれません。
右手の身頃をググッと押し込んで体に巻き付けます(力を入れて押し込む)。左手の身頃を上から重ね、左手の小指から手首を使って布をシッカリ押さえます(左写真)。シッカリ押さえられた!と感じたら、右手をスッと抜きます(右写真)。
抜いた右手と左手を交換し、今度は右手が上前の襟先をシッカリ押さえます。体に巻いた布が落っこちないように、ギュッと力を入れましょう!
ひもを巻く、締める、結ぶ
右手は腰骨の2~3cm上、つまりだいたいウエストあたりになります。左手にひもを持ち(左写真)、右手に渡します(右写真)。右手はひもをもらいつつ、ウエストあたりをシッカリと押さえたままです。ここがゆるむと、布が下に落っこちてしまいます。
右手がひもをお腹に巻くスタート。
背筋を伸ばして、左手でひもをお腹に巻いていきます。赤い線のようにお腹はおへそ近辺をわたしていきます。
皆さんはお相撲さんのまわしを見たことがありますか。「はっけよい、のこった!」と力士が向かい合ったときのまわしは、横から見ると斜めに巻かれていますよね。あのイメージで、お腹側がおへそ近辺、お尻側がウエストくらいに斜めに巻くと、骨盤がしっかりと安定します。
右写真のように、背中でギュッと力を入れて締めてください。骨盤が安定するだけでなく、背筋がスッと伸びて、姿勢全体が良くなる感じがしたら、正解です。
結ぶポイントは、せっかく締めたひもがゆるまないようにすること。ゆるまなければどんな結び方でもよいのですが、オーソドックスなやり方を説明しましょう。
ひもの交差のし方は、きものの衿と同じで「左が上」と覚えておきましょう(左写真)。「あれ、どっちだっけ」と思ったら、衿を見て確認するとよいです。
右写真のように、結ぶときに常にゆるまないように結び目を手の指で押さえています。油断するとすぐに緩むので、結構力を入れています。
結び方はリボン結びでなく片輪結びです。片輪とは、リボンの輪が一つしかないもの。二つ輪があると、それだけほどけやすくなるからだと思います。
片輪むすびのやり方その1(左写真)。右手の甲で結び目を押さえながら、左手でひもを右手の指に巻いて輪っかを作り、右手の指先でひもの先を引っかけて、輪っかを通して引っ張ります(右写真)。
このやり方の良いところは、手の甲で結び目を押さえているので、ひもがゆるまないことです。私はこのやり方が慣れているのですが、皆さんなかなか難しそう。そこで,リボン結びが慣れている方は次のやり方で、どうぞ。
左写真のように、まず輪っかをつくり、そこにひもを巻いて結ぶやり方。注意点は、ゆるまないように右手の指でしっかり結び目を押さえます。
もう一つの注意点は(右写真)、力を入れてギュッと結んでください。フワッと結ぶと、それだけでゆるんでしまいます。
右写真のように、結んだひもが横一文字になればOK。輪っかは右でも左でもよい。左写真のように縦になったら、これは縦結びといって、ゆるみやすいので結び直してください。
最後にひもの端を、体に巻いたひもの中に入れ込んで処理します。
ひもが体に与える効果
私たち現代人は、普段ボタンやホック、ゴム、チャックのついた洋服を着ていて、ひもを使うことがありません。ひもを使うという行為は、かなり面倒くさいことだと思います。
しかし、最近では、ひもを使った健康法(いわゆる「ヒモトレ」)もあるくらいなので、この面倒くさいひもを使うことの良さが見直されているようです。
特に腰ひもは、前述のように、骨盤を安定させるだけでなく、次のような効果もあると考えます。
1)ひもで体という筒を引き締め、体の中心軸を意識するようになる
2)下腹(下丹田といわれるところ)を意識し、骨盤の中の臓器を大切にする意識が生まれる
3)骨盤が立ち、腰椎が伸び、姿勢が良くなる。猫背や肩こり、体調が改善し、気持ちが明るくなる
4)下腹や足腰に力が入るようになり、地に足がついて、心身が安定するようになる
私の日舞以外の友達ですが、リモートワーク時は、きものを着ているという人がいます。彼女は「体がしっかりするから」と言っていましたが、中高年の方でも若い人でも、きものは意外と多くの人に支持されていることを感じます。
私は、普段の生活は洋服ですごしていますが、家の中では腰に巻くエプロンを欠かさずにしています。彼女と同じく「体がしっかりするから」です。きものを着なくても、腰にひもを巻くだけでも効果があるのではないかと思います。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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