きものを着るコツは姿勢です

猫背やダラッとした姿勢では着崩れる

きものを着るコツは、私は第一に姿勢であると思っています。パソコンやスマホを見るときになってしまいがちな、猫背や仙骨座り(足を前に投げ出したダラッとした姿勢)だと、きものは着崩れてしまいます。一方、着崩れないよう腰ひもや胸ひもをきつく縛ると、息が苦しくなってしまいます。

日本舞踊はお稽古をするためにきものを着なければなりませんので、最低限自分で着られるようお教えすることになりますが、積極的に「着付けを教えます」とアピールすることはほとんどないと思います。

それは、きものの学校(きもの教室)によって着付けが専門分化し、あるいは商業化したこととも無縁ではないかもしれません。

ほとんどの人にとってきものを着ることは人生の中で特別なとき(七五三、成人式、卒業式、結婚式)だけとなり、人生に数回の晴れ舞台ですから、着付けは完璧でなければなりません。世の中から普通に着付けできる人がいなくなったことと表裏一体で、着付けは高度にプロ化し、「専門の方にお願いします」という風潮になりました。

私の教室ではあえて「着付けをていねいにお教えします」ということを特徴の一つに掲げました。それは、きものを着ること自体が敷居の高いものに、日常生活から遠くなってしまった今、もっと普通に自分が着るため、そして人に着せてあげるためのレベルの着付けを広めていければと思ったからです。日本舞踊のお師匠さん達にとって、そのレベルの着付けでしたら、大得意です。

また、もう一つの大切な理由は、「着付けをすることで姿勢が整い、日本舞踊を踊る姿勢の基本につながるから」という積極的な意味があると思っています。「日本舞踊のお稽古は、着付けから始まっている」というのが、私の信念です。

私の着付けの技術は、12年前、さる大手のきもの学校で学びましたが、その方法だけでは満足できなかったので、きもの研究家の笹島寿美さんの本を読んで独学し、今はとても尊敬している芸者の方から実践的な着付けを学んでいます。これから書くことは、三者のノウハウから、自分の経験を点検したうえで到達したものですが、これからもブラッシュアップしていきたいと思っています。

背筋を伸ばし、肩の力を抜く~腰痛防止にもなる腰ひも

きものは洋服と違って平面の布で、その平面の布を身体に巻いて着付けなければなりません。身体をこけしのような筒に見立て、布を巻いていくわけですが、その中心に背骨があるとイメージするとよいと思います。きものは「背骨で着る」と思っています。

筒がゆがんでしまうと、布はきれいに巻けません。きものを着るときは最初から最後まで、頭頂部を天に向けて背骨を気持ちよく伸ばすことがキモだと思います。「気持ちよく」がポイントで、力まないのがGOOD。力んでしまうと、身体のどこかがゆがんでしまうからです。

とはいえ、ひもを縛るときには多少力が要りますから、最初のうちは力んでしまうのは仕方がないかもしれません。力むと肩が上がるので、肩を回したり上げ下げして、力を抜きます。深呼吸して脱力するのもいいと思います。

姿勢を崩さないために、姿見を利用しましょう。姿見がないと、裾の長さをチェックしようと下を見るために、姿勢が崩れてしまいます。使う腰ひもや伊達締めは、あらかじめ姿見の上に引っかけておくとよいです。ひもを床に置くと、それを取るためにしゃがまなければならず、やはり姿勢が崩れてしまいます。

姿見にひもを掛けておく

腰ひもは、腰骨のでっぱりのやや上、前はおへそあたりから、後ろはやや上に、斜め上に向かってひもをわたします。相撲で両力士が「はっけよい」と見合ったときのまわしの角度をイメージするとよいと思います。

腰ひもは身体の前(右)から後ろ(左)に向かって斜め上に

これは、腰椎から丹田にしっかり身体の力が集まる角度なので、骨盤から背筋がしっかり伸びて気持ちよいし、腰痛防止にもなります。(腰痛防止ベルトもこの角度だと思います)私は、洋服でも前掛け型のエプロンをこの角度で締めて、台所仕事をしています。

ぐっぐっと締めて背筋を伸ばすと気持ちがよいものです。腰ひもは、きものが着崩れないための一番大切な場所であり、かつ腰がしっかり入り、ここが身体の要だなぁと感じられます。身体全体に気合いが入る感じです。

さらに胸ひも、帯の詳しい締め方については、たくさんの行程があるので、ここでは触れませんが、「姿勢よく」の原理は同じです。胸ひも、帯を結ぶ作業をしている間も、腰椎から背骨を気持ちよくのばします。背骨は天から地面までをしっかり貫いている、しかし、それ以外の余分な力はなるべく入れないように、というのが理想だと思います。

日本舞踊の基本姿勢は着付けから始まる

日本舞踊を踊るときに目指されている基本姿勢は、このきものを着るときの姿勢を、さらに究極まで推し進めたものと言っていいのです。

腰ひもをまわしの角度に締めて、腰から背筋を伸ばすと書きました。日本舞踊では、さらに恥骨を下に向けます。

そうすると、普通は上体が前かがみになり、うっかりするとお尻が出てしまいます。そこで胸を張り身体をそらせて、上体を起こします。

胸を張るとき余分な力が入ると、肩が上がってしまい美しくなくなります。そこで重心を後ろにかけ、肩を後ろに回しながら背骨へ引っぱるようにします。自分にとって肺いっぱい空気が入り、ストンと力が抜けるところがちょうど良い加減のところで、胸が開き、形が良くなるんです。

ただ、重心を後ろにかけて胸を張ると、今度はお腹が出てくることがあるので、また恥骨を下げることを意識しなければなりません。良い姿勢はお稽古あるのみ!我が師匠からはいつも、「お腹が出てるよ!」「お尻が出てるよ!」「肩が上がってる!」と、厳しいチェックが入ります。

舞台で本衣装をつけると、プロの衣装屋さんは、身体がそうなるようにちゃんと着付けてくれますので、少なくとも見た目はかっこよくなります。(あとは、自分の踊る技術が伴うかどうかなのですが…)

プロの方に着付けてもらい舞台で気を張り、自然と胸が張る

普段きものを着るときも、まずきものを姿勢よく着付けられれば、踊っているときに、ひもや帯が姿勢を支えてくれます。「踊りのお稽古は着付けから始まる」と、考えるゆえんです。おそらく日本舞踊のお師匠さん達にとっては、当たり前すぎて言語化してこなかったかもしれません。

先日、芸者さんに引き着(裾が床に引きずるほど長いきもの)の着方を教えてもらったときのこと。美しい裾のラインをつくるためには、両股と両膝がピタッとくっつくほどに両裾をギッチリと合わせるよう教えていただきました。「そうか、だから女形の踊りは股と膝をくっつけて踊るのか」と気づきましたが、考えてみれば、着ているものがそうなのだから踊りがそうなるのは当然ですね。当たり前すぎることに今更ながら気がついた私です。

裾を引いた引き着


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