身体にやさしい着つけとは~力まかせで着ていた着方を止める

日本舞踊は、きものを着て跳んだりはねたりもしますから、当然のことながら着崩れます。それを防ぐために、きつく締めてきものを着る――私は長い間、それはある程度仕方ないことと思っていました。

ところが、自分の着つけ方法を根本から見直さざるを得ない事態に追い込まれました。それは血圧です。

50代半ばを過ぎたら血圧が上がりはじめた

職場では毎年健康診断を受けていました。ずっと110mmHGくらいだった最高血圧が50代の半ばを過ぎたときから、120代→130代→140代と、毎年毎年上がっていったのです。本当に「あれよあれよ」でした。

血圧が上がる原因は、つまるところ動脈硬化すなわち血管の老化です。あぁ、もう若くないということね、としみじみ思いました。高血圧は将来、心臓や脳の血管にダメージを与え、死に至る病を引き起こすといわれています。今や降圧剤を飲みましょう、というのは常識となっています。

「しかし、ちょっと待て」と、立ち止まりました。なぜ自分の血圧は上がったのだろうか?血圧を上げている要因があるに違いない。例えば遺伝(親が血圧高くないか)、性格、食べ物、運動、生活習慣、仕事のやり方、環境etc…。これらの中で遺伝的要因や性格は直せないけど、環境や生活上の要因なら改善できないだろうか?まずそこをやってから医者に行こう、と思いました。

半日着ると襟はぐだぐだ、帯が落ちてくる

その一つが、「きものの着つけ方法の見直し」だったのです。

それまで、着崩れを防ぐために、力まかせでぎゅうぎゅう締め付けていて、何となく心臓に負担がかかっているかもと感じていたからです。

私は上半身が貧弱なので、タオルで補正をしています。補正もきものを裏側から支えて着崩れを防ぐものです。それでも、半日も着ていると、襟元がぐだぐだになる、帯が落ちてくる、裾が下がってくる…。それを防ぐために、さらに紐でも帯でも、ぎゅっと力任せに閉めてしまう、そんな悪循環でした。

自分の技術のつたなさを棚に上げて、「仕方ない」と、ずっと諦めていたところがあります。しかし、力任せで血圧を上げるような着方を改めなければ、私は日本舞踊を、年をとって長くつづけることができなくなってしまうでしょう。

幸運なことに1冊の本に巡り会いました。津田塾大学教授・三砂ちづるさんの『きものとからだ』(バジリコ)です。三砂さんは国際的に活躍される疫学者で、その立場から日本の伝統的な身体・生活文化を再評価されています。毎日きものを着る生活を実践されている方でもあります。

初っぱなから、三砂さんはこう書いています。

きもの、というわたしたちの伝統衣装は、からだにも気持ちにもよい衣装である、つまり、きものはからだによい。

『きものとからだ』p6

手のひらと呼吸を使って着る

私も心からそう思います。なのに私は、補正のタオルを身体にぐるぐる巻いて、紐や帯でぎゅうぎゅうに締め付けているのはおかしい?―と気づかされたのです。私は10年前にある着つけの学校で学んだ方法で着ていましたが、自分の着つけを、根本から見直すことにしました。特にヒントになったのは、次のような箇所です。

その日のからだに直線のきものをなじませていく。曲線のからだに直線のきものをあわせていくのだから、物理的にはどうしてもすきまができ、空気が入る。この空気を手のひらで抜きながら着ていく

同p.136

「(帯は)自分のからだと呼吸にあわせて巻いていくと、とても気持ちがよい。呼吸にあわせて帯の位置が決まっていく」

同p.58

「手のひらで布地をからだになじませる」「呼吸にあわせて帯を巻く」。この二つのコツが分かっただけでも、とても大きな収穫でした。

そしてさらに、三砂さんの本に導かれるように、着装コーディネーター笹島寿美さんの着つけにたどりつきました。(『笹島式一人でできる着付け』世界文化社)。笹島さんの、「骨格にそって着る」という基本的な考え方、また、補正は最小限に、特殊な道具を使わず、どこにでもあるもので着ることができるという方法論に惹かれました。

「きものを着て帯を締める」は、数多くの工程で成り立っています。その工程の1個1個を根本から見直し、新しいやり方をやってみて、うまくいくかどうか検証し、うまくいけば取り入れ、なおかつどんなときでも対応OKというところまでこなれたものにする、という作業は、これまた長い道のりに思えます。

これをコロナ渦で自宅籠もりの時期に、本格的に取り組んでみました。つづきはまた、改めて。


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