「パンデミック」を日本舞踊で表現すると~坂東冨起子さんの挑戦

坂東流の舞踊家、坂東冨起子さんが昨年秋、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)をテーマに創作舞踊を作られました。その動画が、東京都の芸術文化活動への支援策「アートにエールを」で、公開されています。その果敢な挑戦に、私もエールを送りたく、ご紹介します。

お面と端布のきものを使って

冨起子さんは、「創作自由市場」という、流派の垣根を越えて新しい創作舞踊に取り組む方々による、無観客公演の中で出品されています。

ここでは8人の舞踊家さんが、それぞれ3~4分の短い創作舞踊を踊っています。その第2部の2番目(18分~)が坂東冨起子さんの「マルキン・パンデミック」です。

言うまでもなく、昨年は新型コロナの広がりで、多くの舞踊公演が中止となりました。対面のお稽古も難しくなり、日本舞踊の存在理由が問われたと思います。

ですから、多くの舞踊家さんたちが、舞踊家として何を踊るのか?何を作るのか?どう表現するのか?と自問自答されたと思います。

冨起子さんの踊りのテーマは、ズバリ「パンデミック」ですが、頭に「マルキン(禁の字を○で囲む)」を付けて表現しています。ここから、「え?何これ?」と思ってしまいます。

最初にこんなテロップが流れます。

「病、恐怖、貧困、猜疑、不安、拒絶、憤怒、葛藤、中傷、差別、迫害、悲嘆、沈黙…」

しかし、このすべての文字を読み終えないうちに、その文字は消えて、踊りが始まります。

踊りは、能面のようなお面を付け、端布をつぎはぎした着物を付けた踊り手・冨起子さんが、現代の音楽に合わせて踊るのです。最初は、重低音の管楽器や打楽器による重苦しい音楽で、恐れやおびえを表すような踊りですが、一転、アップテンポなポルカとなり(フィンランドの民謡だそう)、激しく何かに踊らされているような振りになります。

最後にお面をパッと外すのですが、素顔のはずの踊り手はマスクをしていて、カメラがアップでとらえるまもなく暗転してしまいます。

きれいな踊りではありません。社会や人々の負の感情そのものに真正面から向き合っていることを、それを舞踊家として身体全体を使って表現されていることに、衝撃を受けました。

しかも、日本舞踊らしからぬ、といえるかもしれません。音楽で邦楽の楽器をつかっているわけでもなく、踊りの身体の使い方そのものも日本舞踊らしくないからです。

「らしい」と思ったのは、お面ときものだけ。でも、このお面ときものが、とてつもなくパワーがあり、はじけるように躍動する身体の動きとあいまって、私自身はこの踊りが好きになりました。(もし冨起子さんの踊りを見なかったら、私はコロナ禍で起きたもろもろの嫌なことを忘れようとしていました)

動画はこちらをご覧ください↓(18分~)

境界を越えてみせてくれる

ご縁あって冨起子さんの舞踊を拝見するようになったのは、この1年です。(冨起子さんのYouTubeチャンネルもスタートしました)。

何となく感じ、尊敬するのは、冨起子さんの、いつもとても挑戦的な取り組み姿勢です。

日本舞踊という伝統を重んじながらも、一線を越えてみせてくれるのです。「ここまでやってみたらどうなる?」と境界線を広げて見せてくださいます。

例えば、「うかれ坊主」は、6世尾上菊五郎による、裸に腹巻き、黒の紗の十徳(羽織)という衣装が確立されていますが、女性はなかなか難しいので、素踊りになることも多いと思います。冨起子さんは、オリジナルの「肉」を衣装屋さんに注文して製作するという工夫をこらし、本衣装で踊られました(YouTubeチャンネルの中にあります。日本舞踊協会の新春舞踊大会で会長賞を受賞されたものだそうです)。

このような舞踊家の方が坂東流にいらっしゃって、私は誇りに感じます。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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