坂東三乃智 日本舞踊教室
坂東三乃智 日本舞踊コラム
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お囃子の世界を分かりやすく手ほどき~若手演奏家による若獅子会チャンネル
2020.11.20 つながる伝統文化月に2回、小鼓のお稽古をしています。 「島の千歳(せんざい)」という小鼓が美しい長唄の曲に魅せられて、いつかやってみたいと思いこがれていました。まだ2年の新米です。 お師匠さんは、邦楽囃子方・福原流のお家元、福原百之助先生。 場所は、新宿区荒木町のお座敷カフェ・サロン「隠の座」(おんのざ)。かつての私の職場の近くで、足繁くランチに通っていた荒木町が、今はお稽古に通う場所となりました。 何も知らない人に寄り添って教えてくれる 百之助師匠は、お囃子方の若手が流派を超えて集まる「若獅子会」という活動をされています。 趣旨は、切磋琢磨して芸を高め合うためですが、それにとどまらず、広く邦楽のことを知らない人にも知ってもらうような取り組みや、お囃子だけの創作曲を作って演奏したり、他分野とのコラボレーション等の企画をされています。 私も、「こんなことを知らないで恥ずかしい」というごくごく初歩的なことを、この若獅子会のイベントから、学ぶことができました。 例えば、私達が歌舞伎や舞踊会に行ったとき、笛や太鼓、大太鼓による派手な始まりの知らせの音が鳴ります。これを聞くと気分がワクワク高揚しますが、普段は何気なく聞き流してしまいがちです。しかし、それは「着到」(ちゃくとう)という、そうした効果を狙ったお囃子の方々の重要な仕事であることも、知ることができました。 お囃子とは、笛、太鼓、小鼓、大鼓だけでなく、虫の声や鳥の声、蛙や赤ちゃんの声、雨や波の音などの効果音も含まれており、江戸時代から伝わるどういう道具を使って鳴らしているのかも興味深かったです。 2006年から始まった若獅子会のメンバーは、百之助師匠をはじめ、望月左太寿郎さん、堅田貴三郎さん、藤舎呂凰さん、福原百貴さんなど、第一線の演奏者の皆さんです。そんな方々が、お囃子の知識がほとんどない人に対しても寄り添って基本から何度も、しかも楽しく教えてくださる活動はすごく貴重だと思っています。 初めてのYouTube生配信は盛りだくさんの内容 3月、このコロナ渦で演奏会が中止になったことをきっかけに、若獅子会でもYouTube配信が始まりました。同月の試行配信をへて、10月11日には初の生配信「若獅子会特別公演」を行いました。今もアーカイブで残されていますので、ぜひ皆さんにご視聴いただければと思います。 2時間にわたる特別公演の内容は次のようなものです。(カッコ内は時間の目安です) 着到(はじまりの演奏)(17分~) 若獅子会のメンバー紹介(22分~) ソーシャルディスタンス獅子(獅子もので使われる囃子を、演奏者がお互いを見ないで、息を合わせて合奏しているかの実演)(26分~) 本皮の楽器と合成皮の楽器の聞き比べ(32分~) 囃子・朗読と紙芝居「一寸法師」(45分~) 三味線と出囃子(出囃子とは舞台に出て演奏すること)、囃子のみの演奏と三味線が入った場合の聞き比べ(1時間11分~) →大薩摩の二人唐草、「蜘蛛の拍子舞」の中の舞 三味線と蔭囃子(蔭囃子とは舞台袖の黒御簾の中で演奏すること、三味線のみの演奏と囃子が入った場合の聞き比べ(1時間36分~) →越後獅子の冒頭、狂いものの早渡り、さまざまな効果音(虫の声、鳥の声など春夏秋冬の長唄と合わせたメドレー) 三味線合方と囃子のメドレー:名場面集(1時間48分~) →新曲浦島せりの合方、娘道成寺つなぎの合方、神田祭・屋台の合方、勝三郎連獅子・打合せの合方、楠公・木の葉の合方、静と知盛・送り笛、船弁慶・早笛、獅子・髪洗いの合方 「敷居が高い」と自分が言ったら終わり ある日のお稽古で、私は百之助師匠に尋ねたことがあります。 「伝統への敬意と、外に向かって大衆性を打ち出すことを両立するのは難しくないでしょうか」「伝統芸能は敷居が高いといわれるので、その橋渡しの役割を果たされているのでしょうか」 百之助師匠は、こう言われました。 「敷居が高い、と言った時点で、そう言っている自分の目線は高いんです。それが敷居を高くしているんですよ」 その言葉にハッとしました。私も結構「日本舞踊は敷居が高い」と安易に言ってしまっていたからです。 若獅子会チャンネルを見ると、やっている皆さんがとても楽しそうなのが印象的です。ぜひご覧になってみてください。 最後までお読みいただきありがとうございます。 日本舞踊やってみたい!と思われた方は、ぜひ無料体験レッスンにお越しください。 >>詳細はこちらをクリック
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江戸時代の大津絵を見てみよう~東京ステーションギャラリー「もう一つの江戸絵画 大津絵」展
2020.10.25 つながる伝統文化2020年9月19日~11月8日、東京ステーションギャラリーで「もう一つの江戸絵画 大津絵」展が開かれました。日本舞踊をやっている人には、江戸時代の人の息づかいが感じられる、ぜひ見て欲しい絵画展です。 藤娘の元となった大津絵 昨年(2019年)12月、浅草で行われた「坂東流チャリティ舞踊会」。私は衣装付きで藤娘を踊らせていただきました。 当日、観客全員に配布されるプログラムの演目紹介は、あらかじめ出演者が書かなければなりません。そこで、私は次のように書きました。 江戸時代、近江国大津あたりで売られた民族絵画「大津絵」は東海道の人気のお土産品だったそうです。『藤娘』は藤の枝を担いだ娘を描いた「大津絵」を舞踊化したもので…(以下略) あちこちの資料をつぎはぎして書いたものです。大津絵がどういうものか見たことがない自分としては、なんとなくもどかしく感じていました。 その大津絵が見られる!しかも絵画展として。東京ステーションギャラリーで開かれた「もう一つの江戸絵画 大津絵」展です。私の中ではタイムリーな、この企画を作ってくれた東京ステーションギャラリーに感謝! 明治以降の文化人を惹きつける しかも、宣伝用ポスターのコピーがふるっていました。 「欲しい!欲しい!欲しい!」 この不思議なコピーの意味するところは次のようなものです。大津絵は著名な画家による絵でもない、ただの土産物で、江戸時代は安易に捨てられてしまっていたのに、明治以降、文化人や画家たちがこぞって(欲しい!欲しい!と)と、価値あるものとして蒐集したから。 それを読んだだけでも「へぇ~」です。私が行ったとき、東京駅構内にあるステーションギャラリーは平日の昼にもかかわらず、わりと多くの人が訪れていました。 3階と2階の2フロアに、約150点を展示し、結構見応えがありました。でも、モチーフは似ているものが多いんです。「藤娘」はもちろん、「鬼の行水」とか「槍持ち奴」「座頭」「花売り娘」「若衆」「鼠と猫」とか、同じものが数点。これがまさに普通のお土産品で、版画で量産されていた、ということでしょう。 文字も書いてあるので、風刺漫画に近い感じです。思わずプッと吹き出してしまったのは、猫が酒を酒をぐびぐびと飲んでいる絵でした。 いったいこれを、なぜ明治以降の文化人たちをして「欲しい!欲しい!」と言わしめるほど価値をもったのか?この絵画展は、その蒐集家の目から見た展示になっています。そのテーマも興味深いですが、私自身がもつ、江戸時代の人が描いた藤娘って何だろう?という疑問に対する答えはありませんでした。 江戸の人たちの「面白がる」眼差し しかし、美術館を歩きながら見ているうちに、気づいたことは、この大津絵と歌舞伎舞踊を生み出した江戸の人々の目線は同じだ!ということでした。 「藤娘」はそうでもないのですが、「供奴」とか、「越後獅子」とか、「うかれ坊主」とか、踊っていると、何となく、江戸の人々は、こういう人たちを面白がっているんじゃないかという目線を感じることがあります。 大津絵も、明らかに江戸の人々は、描かれているものを面白がっているのが、分かります。 ということでいろいろと楽しめる「大津絵」展。11月8日までです。新型コロナ対策のため、事前予約チケットを買う必要があります。 最後までお読みいただきありがとうございます。 日本舞踊やってみたい!と思われた方は、ぜひ無料体験レッスンにお越しください。 >>詳細はこちらをクリック
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越後獅子をピアノで弾くと~福島ゆきさんの「ピアノで綴る日本の調べ」コンサートより
2020.10.25 つながる伝統文化私の知り合いの音楽家の方で、40年近くにわたって、日本の曲をピアノ曲に編曲して海外に紹介されてきた方がいらっしゃいます。 福島ゆきさん。東京都狛江市在住。今年6月、同市で無観客の「感謝のファイナルコンサート~ピアノで綴る日本の調べ」を開きました。 YouTube配信された演奏会の冒頭は「越後獅子」でした。日本舞踊に取り組む私達にとってはポピュラー中のポピュラー、名曲中の名曲の長唄ですので、ぜひ多くの方に聞いて頂きたいと思い、福島さんの許可をいただいて、ご紹介します。 舞踊では最後のさらしを振るクライマックスの2分のみですが、ピアノによる力強い演奏をご堪能ください。 面々と受け継がれてきた日本の音楽を伝えたい 越後獅子は、江戸時代の1811年に、三代目坂東三津五郎と三代目中村歌右衛門の新作の競い合いの中でできた「変化舞踊」の中にあり、わずか1日でできたというエピソードが残っています。ビックリしますね。 福島さんは、リサイタル「日本の調べ」に組み入れようと、1986年に編曲されました。ベルリンで行われたコンサートでは、演奏と合わせて、花柳流の舞踊家の方が踊りも披露されたそうです。 今回の演奏会は、福島さんが今年70歳の古希になったことを機会に、最後のリサイタルとして、2020年の今年6月6日に予定していました。 ところが、新型コロナの影響で中止。 「最後と覚悟していたので、延期せずもうやらない」と思っていたら、いろいろな方々の協力があって、6月19日に無観客で実施し収録。YouTube配信が実現し、CDも作ってしまったそうです。“もうやらない覚悟だったのに、まさかこんな形で残るとは”と感慨深げにお話しされていました。 「コロナ渦という予想外の事態となり、このような時だからこそ、古来から面々と受け継がれ、さらに西洋音楽を取り入れ親しまれてきた日本の音楽の特有の底力を、私なりに届けたいと強く思うに至った」(CD盤の解説より)とあります。 花嫁衣装の打ち掛けをリメイクしたドレス 今回の演奏会は、演奏と福島さんの解説コメント含めて約1時間。越後獅子の他、次のような曲もあります。(時間は、その曲が始まるおおよそ目安時間です) 第1部 春の調べ 越後獅子(0分~) 春の海(4分~) 待ちぼうけ(12分~) 左手のための「荒城の月」(18分50秒) 幻想曲「さくらさくら」(24分20秒~) 第2部 秋の調べ ファンタジー「越天楽」(30分~) ふるさと(35分) 中国地方の子守歌(39分~) 浦島太郎の主題による変奏曲(42分40秒~) アンコール:アルハンブラの思い出(52分30秒~) 雅楽「越天楽」のピアノ編曲も初めて聞きました。「こういうこともできるんだぁ」とただただビックリでした。アンコール曲として用意された「アルハンブラの思い出」は、とても心静まる演奏です。 もう一つ、着ていらっしゃるドレスにも注目!きものを切って作ったものです。なんと花嫁衣装の打ち掛けなのだそうです。YouTube最後の5分(58分50秒~)は、その衣装にまつわるエピソードが語られています。 それでは、ゆっくりご視聴ください。 最後までお読みいただきありがとうございます。 日本舞踊やってみたい!と思われた方は、ぜひ無料体験レッスンにお越しください。 >>詳細はこちらをクリック