おさらい会(発表会)の着付け~着付けられる人、着付ける人のポイント

おさらい会(発表会)用の着付けとは?

日舞の教室では、普段のお稽古で必ずきものや浴衣を着ますが、おさらい会(発表会)があると、そこでは普段のお稽古の時よりランクアップした晴れ着(付下げ、振袖、訪問着、紋付き等のフォーマルきもの)を着付ける必要があります。

おさらい会は普段のお稽古の成果を発表する「晴れ舞台」であり、舞台でたくさんの方に見られるわけですし、写真や動画にも残ります。できれば格の高いきもので、ビシッと決めたいものです。いわば“勝負”着付けということですね。

ここでは、おさらい会用の着付けについて

(1)日舞は知っているがフォーマルの着付けに自信がない人の課題(着付けてもらう側の問題):普段のお稽古できものを自装できるようになった人が、次のステップとしておさらい会向けの晴れ着を着るために、何に気をつけたらよいのか?

(2)日舞は知らないが、着付けはプロ級の人の課題(着付ける側の問題):成人式、結婚式、七五三等、晴れ着の他装ができる着付師さんが、日舞発表会用の着付けで何に気をつけたらよいのか?

について日舞の師匠業をしている私が日頃感じていることをまとめたいと思います。(1)の課題、(2)の課題、それから(1)(2)共通で知っておいて欲しいことを書きます。私もまだ研究の途上です。ご参考になれば幸いです。

お稽古用のカジュアル着付けから発表会用のフォーマル着付けへのステップアップ

まず(1)について。着付けられる人にとっての課題です。

お稽古用で着られる(自装できる)ようになったというのは、カジュアル(普段)きものを家の中で着られる、人目は気にしなくて良い、多少間違っていても、先生が直してくれる――という段階です。

その段階に慣れたら、自分の着付けを人目にさらしましょう。つまり、きものを着て外を歩くことです。お稽古の日には頑張って自宅で着て、コート等を羽織って草履を履いて外を歩き、電車に乗りましょう。きものを着た人は、目立ちますから注目されますよ。この段階で、自装の能力は結構レベルアップします。

そして次が、フォーマルな場に出ていくことのできる、晴れ着の着付けです。

舞台で観客の皆さんの前で踊るわけですから、見苦しくなく、美しく着付けることがポイントです。自装に自信がなければ、人に着付けてもらったほうがよいですし、少なくとも他の人にチェックしてもらうことも必要でしょう。

舞台用の着付けが自分でできるようになると、結婚式などフォーマルな場でも人に頼まなくてもすむので、きものを着ることが俄然楽しくなると思います。

踊り特有の気をつけたいこと

次に(2)の課題について。日舞のことはよく知らないけど、着付けはプロ級の人に知っておいてほしいことです。

成人式、卒業式、結婚式、七五三等、人生の晴れの舞台での着付けと踊りの発表会用の着付けの大きな違いは、「踊る」ことができるかどうかです。

お式の場合は、写真を撮ったり、食事をしたりするだけですが、踊るときには腕や足を大きく使わなければならないからです。

それでは、どういう踊り特有の動きが、着付けによって影響を受けるかを解説します。

①袖たもとを使った動き

女形でも男形でも、袖の中に腕から手の先まで入れる所作が多いので、袖を目一杯伸ばせるように着付けることが必要です。この所作のため、踊りをする人は、裄丈を長めに仕立てることが多いです。

a)娘袖

b)構え(小指で袖をつかむ)

c)かむろ袂

②座って膝立ちした状態で歩いたり回ったりする所作

③男形のキマリ

④男形の足上げ(片足立ちで膝を高く上げる)

以上、特に代表的な動作をあげてみました。

次に、こうした日舞の所作をやりやすいように、着付けの各段階に応じて気を付けるべきポイントをあげます。

おさらい会用着付けのポイント (1)(2)共通

①肌着の段階:裾よけをして足を開き、開きやすいことを確認する

男踊りをする人は裾よけは長さ・幅ともに大きめのものを着用する。できれば踊り用のステテコをはくとよいです。

②肌着の段階:ゆるゆる着付けにならずビシッと着るために、補正をきちんと行う

補正箇所:鎖骨下(ガーゼと綿を使った例)

補正箇所:バスト下、ヒップのくぼみ(さらしとタオルを使った例)

ヒップの上(ヒップパッドを使った例)

③襦袢の段階:衣紋の抜け具合

こぶし一つを基準に女形は少し抜き、男方は少しつめる。少しというのは「心持ち」程度です。

④腰ひもの段階:女形の膝立ち、男方のキマリで裾がはだけたり、足が丸見えにならないことを確認する。

※ 足を開き、開きやすいか、足が丸見えにならないかを確認

※ はだけてしまう要因と注意点

きものの後ろ幅が自分の身幅に合っているか?(踊りをする人は、後ろ身幅を大きめに仕立てることが多いです

着付け際、上前・下前のうち上前を深く着る

⑤胸ひもの段階1

胸元がゆるゆるにならないために、体型によってコーリンベルトを使う。おはしょりをきれいにするため一重上げは必ず行う。

⑥胸ひもの段階2

胸ひも伊達締めを締めたら、腕を挙げて、上がりやすいかどうかを確認する。

⑦帯を締めた最後の段階

鏡で見た目全体をチェックしたら、もう一度腕が上がるかどうかを確認します。上がらなければ脇の下の後ろ身頃を上に引っ張って、腕を上げやすくします。

身体と対話しながら着付ける

普段洋服で生活している現代の人々にとって、きものは、ひもや帯で体中をグルグル巻きにするので「苦しい」「動きにくい」「歩きにくい」というイメージがあると思います。確かに洋服と比べると、すぐにそう感じるのは無理もないことです。

しかし体感すると分かりますが、ひもで縛るのは骨格(内臓を締めない)なので、身体の軸が定まり(身体が引き締まる感覚)むしろ気持ち良く動きやすいのです。

帯がコルセットのように、骨盤を立てるので、背骨がS字になり、自然と姿勢もよくなります。背中がグニャグニャだった人も、きものに慣れてくるとシャキッと立てるようになります※。つまり、きものを着られるようになると、身体が変わっていくのです。

(※帯ときものが体を守った事例があります。私の知っている80歳代の方ですが、雨の日、きものを着てでかけ、横断歩道を渡ろうとして、走ってきた自転車に横から追突されてしまいました。ものすごい衝撃だったはずですが、その方は手を前について転び、手と足に血が出る外傷があった他は、身体内部に骨折した箇所はなかったのです!80歳代の方ですから、その話を聞いて私はとても驚きました)

きものを着て、腰で動くという所作を身につけると、きものが苦しいもの、動きにくいものでなく、気持ちのよいもの、所作が自然ときれいになるものであることに気がつくと思います。きものは洋服より重いので身体に負荷がかかり、自然と深層の筋肉をきたえ、体力がつくようにも思います。

一方、着付師さんにとっても、袷のフォーマル着物や、金銀の箔のある帯は重いので、着付けるためも体力が要ります。着付けられる人は、着付師さんが着付けやすいよう、足裏から頭まで背骨に気を通し、足腰を踏ん張り丹田に力を入れ、自分の軸を定めて、着付けてもらうようにしましょう。それは、日舞のお稽古も通じるものです。

踊る体作りは、着付けから始まる、ともいえるのですね。着付師さんと着付けられる人が、「このくらい(締め具合)はきついですか?」「腕は上がりますか?」「足は開きますか?」など、身体と対話しながら、着付けられるようになるといいですね。

おさらい会は“勝負”足袋で!

最後に足袋について書きます。足下は大切です。おさらい会は人前で踊るので、足袋は少なくとも切れていないもの、汚れていないもの、洗濯してまっさらなものをはきましょう。

できれば、普段用の足袋でなく、舞台用の足袋を買った方がよいですが、足袋はけっして安くないので、強制はしません。私の場合を参考にしてください。

①4枚コハゼでなく5枚コハゼ

②自分の足首の太さに合ったもの(メーカーによって色々な足の形のものを売っているので、そこで自分の足に合ったものを買います)。足首が締まっている方がかっこよい

③底が、踏ん張りやすい素材のもの

④新品は底がすべるので、1回必ず水を通す

人目につかないところにもちょっとお金をかけ、ちょっと手間暇かける、というのが舞台に出る特別感があってよいのではないかと思います。