日舞があるから仕事も頑張れる  扇子さえあれば身一つで練習できる

しおりさん(20代後半)

【プロフィール】夜勤のある医療専門職。お稽古歴半年(取材時)

 

三乃智 しおりさんが日舞を始めようと思ったのはなぜですか?

しおり 仕事をする自分とは別の、 “違うもの”がやりたい。誰のためでもなく、自分のために自分の好きなことで、長く続けられるもの…

私が仕事でお世話をさせていただいたご利用者さんが、日舞の先生をされていて、お話をうかがったことが、日舞との最初の出会いでした。その時、かつて自分が、着物を着た仕事にあこがれていたことを思い出しました。もともと大河ドラマや歴史が好きで、日本の伝統芸能にも興味があり、お教室を探したのです。

 

三乃智 しおりさんと出会った頃、「私は正座が得意です」とおっしゃったのが今も忘れられなくて、若いのに偉いな、と思いましたが。

しおり 80代の祖母が、正座が好きで、何時間でも座っていられるのです。それで、なんでこんなに座っていられるのだろう?と観察して、色々分かったことがありまして…正座については“悟り”を開きました(笑)。

 

三乃智 悟り!(笑)。しおりさんは、シフト制でお仕事をされていて、お休みの日にお稽古に来られていますね。初めは月2回、3カ月後に月3回、5カ月後は月4回となりました。

しおり はい。自分の生活に合わせて、回数を増やしていきました。

 

三乃智 夜勤のあるお仕事で休みの日はお疲れでしょうに、よく回数を増やされましたね。

しおり いやぁ、休みの日は何もしていないので、「もっとやりたい!」と思うようになったのです。月4回でも両立できている要因は、自宅でやらなければいけないことが少ないからだと思います。ピアノのように、毎日練習しないと指が固まってしまうこともありません。お扇子さえあれば、自分の身一つで練習できます。自分が疲れていないときに、自分のペースで練習できることが、私に合っていると思いました。

 

三乃智 おうちでも練習されているのですね!

しおり お稽古で習った振りはすぐ忘れてしまうので、自宅までの帰り道、スマホのメモ帳に追記していきます。次のお稽古までに、家で必ず一度は復習して踊ってみます。

 

三乃智 しおりさんにとって、日本舞踊はどういうものですか?

しおり 日常の中で、非日常の世界に入っていけるもの。

例えば、夏に風鈴がチリンと鳴った瞬間、暑い日常の中でちょっと涼しい風が感じられる、みたいな。でもその音をちゃんと聴かないと、その世界に気づけない…。

日本舞踊は、その時代に生きている人の息づかいを感じたり、昔の人と対話ができる、そこには言葉に表せないくらい大きな世界が広がっている、と思います。

今は、日舞があるから仕事も頑張れる、かけがえのないものになっています。

私は大きな目標をもって日舞を始めたわけではありません。でも、お師匠さんが書かれたブログや、お借りした本を読んで、江戸の流れを汲む坂東流が好きになりました。お師匠さんが大切にしてきたものを、いつか自分も継ぐことができる人になりたい、という夢を持つようになりました。

 

三乃智 ありがとうございました。