1.美しい所作の土台になる身体の使い方を学ぶ

生活様式が変わり、身体の使い方を忘れてしまった

当教室は2020年オープンと新しいこともあり、生徒さんは100%初心者。そして、ほとんどの方が「美しい所作を身につけたい」「着物を着たい」「体を動かしたい」「体幹をきたえたい」という希望をもって、教室の門をたたいて来られます。
 
そのような方々に日舞をゼロから教えるという作業をして分かったことは、皆さんの不得意な動作はほぼ共通しているということです。
例えば、1)正座、2)正座からスッと立つ、2)腰を低くする、3)内股を締める、4)足をまっすぐ上に上げて片足で立つ などです。
実は、これらは、日本舞踊の一番土台となる初歩の動作でもあります。
 
こうした動作が不得意な方は、運動不足を感じている中高年だけでなく、若い人でもできない方は多いのです。そこでこれは、筋力の問題というより、身体の使い方の問題であると気がつきました。
背景には、日本人の生活様式の変化があると思います。
 
私は1962年(昭和37年)の生まれで、現在60歳代ですが、昭和の時代は、畳に座ってちゃぶ台で食事とい生活が普通でした。また、トイレは和式でしたので、1日に何度もしゃがんだ状態から立つという動作をしていました。ですので、上記1)~4)の動作は特に練習しなくても、スッとできていたものです。


 

 
この30~40年の間に、住宅から和室がなくなっていき、トイレも洋式に変わっていきました。今の生活では、地面から立つという動作をしなくても、普通に生活ができます。
人間は環境の動物ですから、そうした生活に慣れて30~40年。かつて日本人が当たり前にできていた1)~4)の動作が不得意になってしまった、つまり「日本人がもともと得意だった身体の使い方を忘れてしまった」ということではないかと思います。

日舞の女性の歩き方が「内また」である理由

日本舞踊と西洋のダンスの最も大きな違いの一つに、「女は内またで歩く」というものがあります。「内またで歩く」とは、つま先とつま先の間を体の中心に向けて歩くということです。逆に男の踊りの場合は、外また(逆ハの字)になります。古典を中心とした日舞の場合、「女は内また、男は外また」を厳しく指導されます。
 
この「内またで歩く、踊る」という行為も、現代に生きる人々にとっては、とても不得意です。「なぜこんなに不得意なのかしら?」と悩むうち、ふと、日舞はなぜこんなにも「女は内また」を厳しく指導されるのだろう?と考えました。
 
これは私個人の考えですが、女性は大正時代までパンツをはいていなかったからではないかと思いました。下着は、今の裾よけのように晒しを巻いていたそうです。大事なところをさらけ出す危険性があったので、内またにならざるをえなかったのです。
 
そういえば、私の子どもの頃(50年くらい前)は、電車で座るとき「女の子は股を締めなさい(膝と膝の間を開けてはいけません)」と厳しく注意されました。あの頃、電車で股を締めないで座る女性はあまりいませんでした。
 ところが、いつの頃か平成あたりから、膝と膝の間をあけて座る女性があっという間に増え始め、今ではそういう人の方が圧倒的に多くなっています。これは、女性のパンツスタイルやフレアスカートなど服装が進歩・多様化しましたので、股を締める緊張感がなくなったということなのかもしれません(盗撮の危険は依然として残るのですが)。
 

 
私は「昔がよかった」と言いたいわけではありません。社会が進歩し便利で快適な世の中になったのは良いことなのですが、逆に人間の身体は、無意識に「怠ける」方を選択してしまうのでしょう。多くの人が「運動不足」「体がなまっている」と感じる背景には、こういう要素も多いように思います。
 
日本舞踊は江戸時代に生まれて、明治~昭和に栄えました。その他の数々の伝統的な芸能も、西洋文明が入る前の、人工の動力・機械がなく、人間が身体をフルに使って生きていた時代に生まれたものといえます。
 
日舞の所作は、人が身体をフルに使って生きてきた時代の動作を、究極の美しい形に表現したものなので、現代の便利な生活に慣れきった私達にとっては難しくなっているのだと思います。しかし、現代においてそれを学ぶことは、私達がもともと能力として持っているのにもかかわらず、忘れさってしまった身体の使い方を取り戻すことにもつながっていくように思います。

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